平成27年度 入学者のみなさんに
血管外に出た血液が自然に固まる現象を血液凝固という。
出血するとまず、血管の破れた部位に血小板が集まって固まりを作る。
さらに血小板からの血液凝固因子、血漿中のカルシウムイオンや傷口からの血液凝固因子の働きで血漿中のプロトロンビンがトロンビンという酵素に変えられる。
このトロンビンという酵素は血漿中に溶けているフィブリノーゲンというタンパク質をフィブリンという繊維状タンパク質に変える。
フィブリンは赤血球、白血球などをその網目状構造に入れて絡め捕り、結果として血餅(けっぺい)ができる。
血餅は傷口を完全に塞ぎ、止血を行うとともに異物の侵入も防いでいる。
(図:フィブリンと絡めとられた赤血球)
病原体が体内に侵入しないようにするしくみには3つある。
物理的な生体防御としては肺や気管気管支の内面を覆う線毛上皮がある。線毛が吸入した異物を捕え、痰として異物を口側に運んでいる。
分泌液による生体防御としては、目では涙中の酵素による殺菌、耳鼻咽頭ではリゾチームによる殺菌が代表的である。皮膚では皮脂や汗による殺菌が行われ、胃では胃液による殺菌が行われている。
共生細菌による生体防御としては、大腸の腸内細菌が大腸粘膜を占拠することにより、他の病原菌の繁殖を抑制していることがあげられる。
細菌やウイルスが上述の生体防御のしくみを突破して体内に侵入してしまうと、これを排除するしくみである免疫が働き出す。
これには血液中の白血球が関わっている。
白血球には好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球がある。
好中球は細菌やウイルスを食べて殺す食作用を示す。
単球は病原体が侵入してくると血管の外に出てマクロファージに分化し、好中球と同じように食作用を示す。
リンパ球はT細胞とB細胞に分けられる。
リンパ球のもとになる細胞が骨髄で作られた後に胸腺(きょうせん)に移動して成熟したものはT細胞と呼ばれる。
なお、免疫系によって異物と認識される物質を抗原という。
抗原になるのは細菌やウイルスの他にもアレルギーの原因になるタンパク質などがある。
免疫は生まれながらに備わっている自然免疫と後天的に備わる獲得性免疫に分けられる。
自然免疫はすべての病原体に対して同じような効果を持つ。
たとえば好中球やマクロファージは、病原体を細胞膜で包みこみ、固形物のまま取り込む。このような作用を食作用(しょくさよう)といい、この作用を示す細胞を食細胞という。
自然免疫の場合、同一の異物が繰り返し侵入してもその効果に変化はない。
病原体の侵入に対してはまず自然免疫機構が働く。自然免疫機構によって病原体が好中球やマクロファージに消化され、さらにマクロファージがT細胞の中のヘルパーT細胞に抗原として提示することで、獲得性免疫機構がスタートする。
獲得性免疫の特徴は過去に侵入した異物を見分けて特異的に反応することである。一度侵入した異物が二度目に侵入すると早く対応できる。はしかには再びかからないか、かかっても軽症ですむのはこのためである。
ヘルパーT細胞はマクロファージからの抗原提示、つまり体内に侵入した抗原の情報を得ると、Bリンパ球に伝え、抗体というタンパク質を作らせる。
このタンパク質は特定の抗原とだけ結合する部位を持つ。
1種類のB細胞は1種類の抗体しか産生することができない。
刺激を受けた特定のB細胞はリンパ節で形質細胞に分化してさらに多くの抗体を作る。
作った抗体を体内に侵入した抗原とに結合させる反応を抗原抗体反応という。
抗原抗体反応によって抗原の毒性部分を無毒化したり、破壊することができる。抗体が結合した抗原は食細胞が認識して食べてくれる。
(図:マクロファージがヘルパーT細胞に抗原の情報を提示します。情報を受け取ったヘルパーT細胞はB細胞を刺激して抗体を作らせます。B細胞はリンパ節などで形質細胞に分化して、さらに抗体を作ります。)
一方、ウイルスが感染した細胞はヘルパーT細胞から分化したキラーT細胞やマクロファージによって破壊される。
まとめると、獲得性免疫
液性免疫は抗原と体液中に放出された抗体による抗原抗体反応による免疫である。液性免疫の主役はリンパ球の中のBリンパ球である。
細胞性免疫とは、T細胞のなかのキラーT細胞やマクロファージなどが感染細胞を直接攻撃する免疫である。
(図;マクロファージがヘルパーT細胞に抗原を提示し、さらにヘルパーT細胞がキラーT細胞に分化するところを覚えましょう。一方でヘルパーT細胞はB細胞に抗体を作るように命令します。こちらは前述の液性免疫です)
抗原除去後、必要でなくなった細胞はほとんど死滅するが、一部の細胞は免疫記憶細胞として体内に留まる。これを免疫記憶という。
細胞性免疫の場合にも一部の細胞が免疫記憶細胞として残るので、免疫記憶が成立する。
免疫機能が全くないか、低下している状態を免疫不全という。免疫不全の一つであるエイズAIDS(後天性免疫不全症候群)はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染によっておこる病気である。
HIVはヘルパーTcellに感染してこれを破壊することで患者の体液性免疫、細胞性免疫の両方の働きを低下させる。このため感染者では健康なヒトでは問題にならないようなカビや細菌に感染して死亡する。このような健康なヒトでは問題にならないような感染のことを日和見感染(ひよりみかんせん)という。
HIVの表面にあるタンパク質は変異しやすいので、HIVに対する免疫は成立しにくく、ワクチンの作成が困難である。
免疫を医学に応用する例としてはワクチン接種と血清療法がある。
弱毒化や無毒化した病原体、毒素を抗原として健康な人に与え、体液性免疫や細胞性免疫を高める。この抗原をワクチンとよぶ
ワクチン接種は抗原を注入し、能動免疫を行わせるもので病気の予防に用いられる。
血清療法は抗体を注入する受動免疫効で、病気の治療に用いられる。
ワクチン接種はジェンナーによる天然痘の予防接種、すなわち種痘(しゅとう)で確立された。効果があらわれるまでに時間がかかるが、効果期間は長い。
弱毒病原体である生ワクチンを与える具体例には、結核菌によるBCG接種、種痘ともいわれる天然痘ウイルスのワクチン、その他、はしかウイルス、風疹ウイルスのワクチンがある。
無毒化病原体である不活化ワクチン、毒素を与える具体例には、ジフテリア菌、破傷風菌、狂犬病ウイルス、インフルエンザウイルスのワクチンがある。
血清療法の目的は病気やへび毒傷害などの治療である。
動物に病原体や毒素などの抗原を注入し、それに対する抗体を作らせる。
その抗体を含む血清を患者に注入し、病原体や毒素を無毒化して除去する。
効力はすぐにあらわれるが、効果期間は短い。
ジフテリア、破傷風に対する血清療法もあり、ワクチンと同様に用いられる。
人によっては花粉、薬剤、食物などが侵入すると、それらの物質を抗原とみなして特異的な抗体がつくられることがある。
同じ人の体内に抗原となった花粉などの物質が再び侵入すると抗原抗体反応がおこり、肥満細胞などの特別な細胞から炎症を引き起こす物質であるヒスタミンが分泌される。
その結果、花粉症の場合には目のかゆみ、鼻水、くしゃみなどの症状があらわれる。
このように、免疫の過剰反応が生物体に悪影響を及ぼすことをアレルギーといい、アレルギーの原因になる物質をアレルゲンという。
ヒトの皮膚に結核菌の培養液から取り出したタンパク質成分を皮下に注射すると、すでに結核菌に感染している場合にはキラーTcellによる細胞性免疫で皮膚に炎症がおこり、その部分が赤く腫れる。これはアレルギーを利用して結核感染の有無を調べる反応であり、ツベルクリン反応と呼ばれる
(図:マクロファージから抗原提示を受けたヘルパーT細胞がB細胞や形質細胞(抗体産生細胞)に抗体を作らせるが、IgEという種類の抗体ができた場合、これが肥満細胞に結合してヒスタミンが遊離される。)
特定の抗原に対する免疫反応が抑制されている状態を免疫寛容(めんえきかんよう)という。生体は自己の成分に対して免疫寛容となる。自分を攻撃することはない。
免疫系が確立後になんらかの原因で免疫寛容に異常が生じると、自己の成分に対して免疫反応がおこることがある。この現象を自己免疫といい、病気を一般に自己免疫疾患という。具体例にはリウマチなどがある。